40代からの人生の寄り道。今回は、私がかつて世界一周の旅の中で立ち寄った、インドでの忘れられない経験をお話ししようと思います。
何か新しいことに挑戦しようとするとき、私たちはつい「何とかなる」「誰かが助けてくれる」と甘い期待を抱いてしまうことがあります。でも、社会の波はそんなに優しくありません。最終的には、自分ひとりでリスクを背負い、立ち向かう覚悟が必要です。しかし、そのシビアな現実を知っているからこそ、時にはふっと力を抜き、波に身を任せることの安心感を知ることができるのです。
1. 混沌のニューデリー。息を呑む空気と、それに負けない生命力
飛行機を降りた私を待っていたのは、どんよりと淀んだニューデリーの空でした。大気汚染が世界的に見ても深刻なレベルで、現地の小学校が臨時休校になるほど。一日中マスクをつけていても、夜には鼻の中が真っ黒になる過酷な環境です。
一見するとネガティブな印象しか受けないかもしれません。しかし、その淀んだ空気の底で渦巻いていたのは、圧倒的な「生命力」でした。クラクションの嵐(ずーっと鳴ってます、鳴りやむことはありません笑)、舗装されていない道を我が物顔で歩く牛、そして何より、この過酷な環境をものともせずにたくましく生きる人々のギラギラとした眼差し。駆け寄ってくるストリートチルドレン「ノーフード、ギブミーマネープリーズ」。綺麗ごとだけでは生き抜けない、力強い熱気。
インド旅の始まりは強烈なインパクトでした。
2. 縁に導かれたコルカタ。出会いがもたらす安心感
ニューデリーの混沌に圧倒されながらも、次なる目的地コルカタへ。長距離列車のトラブルを避けるため、安全を買って国内線の飛行機で移動。コルカタもまた大気汚染が酷く、砂埃が舞う街でしたが、ここでは心温まる出会いが待っていました。
今回のインド訪問の最大の目的は、マザー・テレサが最初に立ち上げた施設「ニルマル・ヒルダイ(通称カリーガート、死を待つ人の家)」でボランティアをすることでした。
かつて東日本大震災のボランティアで苦楽を共にした仲間の紹介で繋がった、日本人のSさん。Sさんは何年もこの「死を待つ人の家」でボランティアをされており、まさにマザー・テレサのような人です。そのSさんが、現地の下宿先である「Kママ」に相談してくれ、空いている一部屋を使わせていただけることに。1週間の滞在中、Kママの温かい手料理に、張り詰めていた心がふっと解けました。過酷な環境の中で立ち向かおうと気を張っていたとき、こうした人の繋がりがもたらす安心感は、前に進むための大きなエネルギーになります。
看護の道を歩む者として、ナイチンゲールやマザー・テレサの存在は避けて通れません。技術や知識だけでなく、その根底にある「想い」「価値観」「生き方」を、綺麗に整備された病院ではなく、圧倒的な現実の最前線で肌で感じたかったのです。
3. 「死を待つ人の家」で見つめた、命の尊さ
このカリーガートには、道端で倒れ、名前も身寄りもわからないまま運ばれてくる方が数多くいます。男女各50名ほどの、病弱で身寄りのない方々を受け入れるホスピスのような場所です。
ある日の午後、施設スタッフと共に、担ぎ込まれた30〜40代の男性を担当しました。意識は朦朧とし、頭に巻かれた包帯は褐色に乾燥し、全身からは強烈な匂いが放たれていました。
まずは状態を把握し、清潔を保つためにシャワー室へお連れしました。そっと頭の包帯を外したとき、そこにあるのは重篤な感染状態でした。想像を絶する状態に一瞬息を呑みましたが、不思議と恐怖や嫌悪感はありませんでした。
ただひたすらに、全身をサッと洗い流し、清潔な布で保温し、水分を飲んでいただく。そして、シスターが側頭部の治療にあたる。時々「パニ、パニ」と言われ(パニ=水)、吸い飲みに水を入れてお渡しする。数口飲まれ背中をさすり寄り添っていると眠りにつく。食欲はなく欲する度に水をお渡しする。私にできたのは、ただそれだけです。その男性は、翌日静かに息を引き取りました。
最先端の医療機器もなければ、劇的な回復を望める状況でもありません。ただ、人生の最期に「あなたは一人ではない」と伝え、人間としての尊厳を保つために関わる。圧倒的な無力感の中で、「人が人を想う」ということの本当の意味、そのシビアで残酷なまでの美しさを教えられました。
マザー・テレサの「想い」、「価値観」、「生き方」は、世界中からボランティアが集う施設をこうして脈々と後世に繋いでいるということ。凄すぎる!!本気で世界平和を想うなら、こうした後世に繋がる、そして波及していく活動が必要ですね。マザー・テレサが当時、記者から「世界平和はどうしたら実現できますか?」という質問に、「あなたは家に帰って家族を愛しなさい」と返答したそうです。確かに自分一人ではどうしようもできないことも、家族から親族、友人、知人へ伝わり、世界中へと広がっていく。そんなことを教えて下さったように感じました。
4. 人生の嵐をしなやかに乗り超えるための力
このインドでの経験や、カリーガートで直面した生と死の境界線。それは、私たちに「社会の厳しさ」を教えてくれます。地域、文化、貧困、格差。新しい環境に飛び込むとき、誰かが手を差し伸べ救い上げてくれることもありますが、最終的には、自分自身がリスクを背負い、自分の足で泥を蹴って進む「覚悟」が求められます。40代での転職や移住、新しい挑戦も全く同じです。
でも、どうか安心してください。シビアな現実を知り、覚悟を決めた人だけが手に入れられる特権があります。それは「力を抜く勇気」です。
ずっと全力で走り続けることは誰にもできません。息が苦しくなったら、、立ち止まってもいいし、時には後ずさりしてもいい。その時、あなたをしっかりと支えてくれるのは、これまであなたが積み重ねてきた経験という名の確かな「土台」です。誇れる成功だけでなく、苦い失敗、迷い、遠回りした寄り道。そのすべてが、これからの人生をしなやかに生き抜くための揺るぎない支えとなります。過酷な現実の中で生き抜いてきたあなたは唯一無二で、間違いなく素晴らしい土台があります。
人生は一度きり。時には嵐の中、雨風に打たれながらも、自分を支える土台を信じて、また楽しいことに向かって歩き出してみませんか。
世界一周旅行記の全話まとめはこちら
世界一周旅行記 全エピソードまとめ – Island Life ~人生の寄り道案内所~
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